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事務のあの人が辞めたら回らない

約5分

長く事務を任せてきた人が、来年には辞めるらしい。まだ先の話だと聞いていても、いざその日を思うと、月末の支払いも、あの取引先とのやり取りも、誰がどう回すのか見当がつかない。そういう話を、よく聞きます。募集をかけて誰か採ればいい、と言われても、落ち着かないものが残る。困るのは手が一人減ることではなく、その人の頭の中にしかないものが一緒に出ていくからです。ここでは、何が引き継げていないのかを、順に見ていきます。

引き継げないのは、作業ではなく判断のほう

事務の仕事を書き出してみると、案外あっさり並びます。請求書を作る、入金を確かめる、電話を受ける、備品を頼む。一つひとつは、教えれば覚えられるものばかりです。

引き継ぎが難しいのは、その手前にある小さな決めごとのほうです。この取引先の請求書は月末締めだが、先方の都合で二十五日に送っている。この会社からの電話は、社長がいなければ折り返しの時間まで聞いておく。入金が数百円足りないときは、振込手数料の分だからそのままにしておく。どれも、どこにも書かれていません。本人に聞けば「そういうものだから」と返ってくる程度のことで、本人ですら決めごとだと思っていない。辞めたあとに困るのは、こういうところです。作業の手順書を作っても、この部分は残りません。

「聞けばわかる」が積み重なっている

一人に長く任せていると、まわりも自然と楽をします。わからないことがあれば聞けばいい、という状態が何年も続くと、聞かれる側にだけ中身がたまっていきます。

たまっているのは、手順そのものより、例外の扱いです。ふつうはこうする、けれどあの相手のときだけは違う。その「けれど」が、十年分ならかなりの数になります。しかも例外は、起きたときにしか思い出せません。だから、机の前で「何を引き継ぎますか」と聞いても出てこない。本人に悪気はなく、隠しているわけでもなく、ただ、聞かれなければ意識にのぼらないだけです。引き継ぎの期間を長く取っても、この形で進める限り、出てくる量はあまり増えません。

残っている月のあいだに、書き留める場所を一つ作る

出てこないものを思い出させようとするより、起きた順に書き留めるほうが確かです。やり方は簡単で、その人が仕事をしている数か月のあいだ、迷ったこと・いつもと違う扱いをしたことを、その場で一行だけ書いてもらいます。

「二十五日に請求書を送った、先方の締めが早いため」。この程度で足ります。清書はしません。清書させようとすると続かないので、日付と、何をしたか、なぜかを一行。置き場所は表計算でも紙の帳面でもよく、大事なのは一か所に決まっていることです。半年もためると、手順書には書きようがなかった例外が、それなりの数そろいます。

この書き留めを整えるところは、AIがかなり素直にこなします。ばらばらに書かれた一行を、取引先ごと、月ごとに並べ直して、似た話をまとめる。読める形にするだけでも、引き継ぐ側の負担はずいぶん違います。整え終わったものを本人に見せると、「これはもう一つあった」と、机の前では出てこなかったことが出てくることもあります。

辞める前に、一度だけ代わりにやってもらう

書き留めがどれだけそろっても、それだけでは足りません。読んで分かることと、自分の手でできることは違うからです。

まだ本人がいるうちに、月末の締めなり、月初の支払いなり、ひと通りを別の人にやってもらう日を作ります。横に本人が座っていて、詰まったら聞ける。その日に出てきた質問こそ、書き留めから抜けていたものです。そのまま書き足せば、次はもう少し進めます。一度で全部できるようにする必要はありません。二度、三度と繰り返せるだけの月数が残っているかどうかで、辞めるまでの過ごし方も変わってきます。

なお、誰か採ってから引き継げばいい、と考えると、たいてい間に合いません。募集して、決まって、慣れるまでの月数を数えると、本人が残っている期間はもう短い。書き留めのほうは、次の人がまだ決まっていなくても、今日から始められます。

迷ったら

何が引き継げていないかは、会社ごとに違います。取引先ごとの決めごとに偏っているのか、お金の扱いなのか、それとも社内の誰が何を頼むかという段取りのほうなのか。

御社でその方が一日どんな仕事をしていて、まわりがどんなことを聞きに行っているか、いくつか聞かせていただければ、どこから書き留めておくとよさそうか、一緒に考えます。

ご相談は初回無料です。何から手をつけるか決まっていない段階でもかまいません。

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